「石油の時代」の終わりの始まり

執筆者:森山伸五2010年4月号

 二十世紀は「石油の世紀」と言われる。十八世紀に始まった産業革命以来、世界経済の発展を推進したエネルギー源は石炭だったが、二十世紀前半に石油が石炭に代わってエネルギーの王座に就いたからだ。二十世紀は「自動車の世紀」とも呼ばれるが、二十世紀後半のモータリゼーションの急激な進展が「石油の世紀」をさらに鮮明にした。
 だが、今、石油は静かにエネルギーの王座から下りようとしている。石油が使われなくなるわけではないが、石油の位置づけは「エネルギーのひとつ」に低下する。七、八十年ぶりともいえるエネルギーの王座交代は世界の政治経済の地殻変動にもつながりかねない要素を持っている。
 英石油メジャーBPの統計によると、世界の一次エネルギー(そのまま利用するエネルギー)のうち、石油が占める比率は一九九八年には三九・九%だった。だが、二〇〇八年には三四・八%とわずか十年で五ポイント以上も低下した。代わって伸びたのは、天然ガス、石炭、水力であり、原子力は原子力発電所の新設低迷、世界第三位の原子力大国、日本における様々なトラブルに伴う稼働率の落ち込みなどで比率を下げた。この統計には今、急激に台頭する太陽光、風力発電、バイオマスなどは含まれていないが、そうした再生可能エネルギーは石油のシェアを目立って奪うほどの大きな存在にはまだなっていない。
 こうみれば、二十世紀前半に石炭から石油に王座が代わった「流体革命」のような鮮やかな交代が起きようとしているわけではない。二十一世紀のエネルギー転換は、天然ガス、石炭など既存エネルギーが石油に対し相対的な優位性を高め、再生可能エネルギーが様々な分野で石油をじわじわと侵食して進む。新興国、途上国に普及を始めた原子力も石油の地盤を侵食するだろう。だが、王座につく新しいエネルギーは現れない。人類は多様なエネルギーに依存することで、持続的な成長を担保しようとするのだ。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。