暗雲垂れこめる「製造業の未来」

執筆者:新田賢吾2010年4月号

この十年あまりで世界の製造業は大きく変化した。“フリーライダー”たちに利益を削られる中、新たな技術シーズを生み出していけるのか。「トヨタはどうしてしまったのか」。日本人の多くは今、こんな気持ちにとらわれているだろう。米国でアクセルペダルの不具合に起因する大規模リコールに追い込まれ、豊田章男社長ら経営幹部が米上下両院の“お白洲”に引きずり出された。世界最強の製造業といわれ、その工場を世界中のメーカーが見倣ったトヨタの転落を、一企業の問題と捉えるべきではない。世界の産業の未来そのものに暗雲が垂れこめているのだ。 一九九〇年代末以降、世界の製造業は供給、需要の両面で構造変化に直面してきた。供給側でいえば、中国を筆頭とする低コストの生産拠点の出現だ。先進国メーカーの技術、資金、ブランドに現地の豊富な低賃金労働者が結びついたことで、世界の製造業は競争力を高めた。結果的に中国、東欧などに生産拠点が怒涛の勢いでシフトした。高賃金の先進国は、モノづくりでは生き残れる分野、機能が狭まって行った。 さらにモノづくりの世界には、先進国メーカーから生産過程をまるごと受託してしまうEMS(エレクトロニクス製品の受託生産メーカー)、ファウンドリー(半導体の受託生産メーカー)などが台頭。メーカーが担っていた研究開発と生産、販売の流れは分断され、製造業の分業的解体が進んだ。EMSなどは複数のメーカーから生産を受託することで、特定製品の生産規模を拡大し、圧倒的なコスト競争力を身につけた。世界最大のEMSである台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)は売上高が六兆円を超え、エレクトロニクスメーカーで太刀打ちできるのはもはやパナソニックやサムスン電子など世界でも数社しか残っていない。

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