ロシアが入り込むEU内の「境目」

執筆者:国末憲人2010年4月号

 ロシアのメドベージェフ大統領が国賓としてフランスを訪問したのは三月一日のことだった。私たちが待ちかまえる中、エリゼ宮(仏大統領府)の前庭に敷かれた赤絨毯を歩み来て、サルコジ大統領と大げさな身ぶりの握手を交わした。大挙してやってきたロシア人記者団と屈強な衛兵らに囲まれ、身長百六十センチ台前半といわれる二人は、いつもよりさらに小さく見えた。 宮殿内で共同記者会見に臨んだ両首脳は「フランスにとってロシアは偉大なる友だ」「二十世紀に存在した両国間の問題は今や消え去った」と、互いに持ち上げ合った。報道陣から質問が飛ぶ。イラン核開発問題への対応、エネルギー供給問題といった定番のテーマ以上に報道陣が関心を抱いたのは、フランスのミストラル級強襲揚陸艦の売却交渉の進展ぶりについてだった。 満載排水量二万千五百トン。ヘリコプター搭載で、病院並みの負傷者収容設備を備えるフランス自慢の軍艦だ。軍需産業の立て直しを図りたいフランスと、軍の近代化や技術刷新を進めたいロシアとの思惑が一致、ロシアが四隻を購入する交渉が進んでいた。建造について、サルコジ大統領は「例えば、二隻をこちらで、二隻を現地で、といった形が合理的では」と述べ、合意が間近なことを示唆した。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。