[ニューヨーク発] 2010年に警戒すべき「世界10大リスク」の第5位に「政権交代が起きた日本」を挙げ、日本での注目度を高めた米コンサルティング会社のユーラシア・グループ。たった一人でこの会社を立ち上げ、12年で、100人近い専門家が世界の隅々の地政学的リスクに目を光らせるユニークな企業に育てたイアン・ブレマー代表(40)に、いま世界に起きつつある変化の核心を訊ねた。

――まずは、政治リスクを考えることがなぜ重要かをご説明ください。
ブレマー 世界経済を考える上で、政治的リスクは、いっそう大きな問題となりつつあります。というのも、グローバル化によって危険な技術が拡散するなか、世界はエネルギー供給をペルシャ湾岸地域をはじめとする不安定な地域に依存している。さらに世界は、不安定で透明度の低い途上国の成長を頼りにせざるを得ない状況になっている。
 こうした現状から何が明らかになるかといえば、「国家は死んでいない」という事実です。

「独裁」は終わっていない

 冷戦が終わった時、「民主主義は勝利し、独裁主義は終わった。国家の役割は終わり、自由主義経済の時代が来たのだ」と叫んだ人たちがいました。だが、冷戦は終わろうとも、独裁は終わっていない。急激に経済発展し、今や世界第2の経済大国になろうとしている中国を筆頭に、ロシア、サウジアラビア、イラン、ベネズエラといった産油国で権威主義が続いている。こうした国々では企業活動よりも、国家が何をどう決めて行動するかの方が大きな意味を持っている。
 これこそが、いま最も重要な問題だと言えるでしょう。
 私たちは、政府、とりわけ独裁的な政府が、いかなる経済運営をしようとしているのかを見極める必要があります。5月に『The End of the Free Market -- Who Wins the War Between States and Corporations?(自由市場の終わり 国家と企業の戦いを制するのは誰か?)』という本を刊行しましたが、まさにこれがテーマです。
 30年ほど前、 OPEC(石油輸出国機構)加盟国の国営石油会社が隆盛したのを源流に、この20年は中国、インド、ロシア、ブラジルが急成長したのを第2の波として、国家資本主義が広がってきた。そして第3の波が、この5年ほどで存在感を増した政府系ファンドです。資本主義とはいえ、国家資本主義は、企業が利益の最大化を目的に行動する自由主義経済とは本質的に違う。国家資本主義の目的は自国と政権の安定であり、国民の心を惹きつけること。

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