鳩山由紀夫首相は5月4日に沖縄県を訪問したが、米軍普天間飛行場移設問題解決の糸口さえ見いだすことができずに帰京した。予想されたこととはいえ、これで普天間問題は完全に行き詰まってしまった。首相が掲げてきた「5月決着」は不可能になったと言っていいだろう。
 この問題を軟着陸させる現実的な方策としては、自民党政権が米側と合意した沖縄県名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沿岸部への移設か、それを一部修正した浅瀬への移設しかあり得ない状況になっている。もちろん、この案も、すでに沖縄県が反対で凝り固まっているような状況では困難がつきまとう。だが、地元の名護市が一度は受け入れに傾いたことがある案なのだから、地元から見て箸にも棒にもかからないような他の案よりも成功確率は高い。

 鳩山首相は今頃になってようやくそうした現実に気づいたようだが、これまで「最低でも県外」と主張していたことから考えれば、この選択肢は「最低以下」である。いずれにしても、県外移設をあおり続けた鳩山首相の責任が問われることは間違いない。

小沢氏にも相談はなし

 こんな鳩山首相の苦境を横目に、民主党の小沢一郎幹事長は4月26日の記者会見で次のように言った。
 「普天間の問題、すなわち日米外交案件の問題については、私は一切関与していないし、もちろん説明も相談も受けていない」
 ずいぶん他人事のような言い方だが、小沢氏は最近の記者会見では必ずこんな話しぶりで鳩山首相を突き放している。
 実際に鳩山首相と小沢氏は普天間問題についてほとんど話し合っていないのかもしれない。連立与党の一角を占める国民新党の亀井静香代表(郵政改革・金融相)は最近、支援者との会合でこう漏らした。
 「首相は小沢に何も相談を持ちかけないらしいんだよなあ」
 小沢氏と相談しない鳩山首相、そして鳩山首相を切り捨てるかのような小沢氏の発言。内閣支持率が2割台前半に落ち込み、7月の参院選の勝利が危ぶまれる事態に至って、政権を走らせる両輪だった鳩山首相と小沢氏の間にすきま風が吹き始めているのだ。
 小沢氏も難しい局面を迎えている。小沢氏の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる事件で、東京第5検察審査会は4月27日、嫌疑不十分で不起訴処分となっていた小沢氏について「起訴相当」と議決した。自民党の川崎二郎国対委員長は小沢氏の進退について、「秘書3人が逮捕されても辞めなかった。そんな人が、これくらいのことで辞めるわけがないでしょう」と皮肉たっぷりに語ったが、逆に言えば、小沢氏はすでに辞職するのが当たり前という段階にあるということでもある。小沢氏と距離を置く言動で知られる民主党の渡部恒三・前最高顧問はこう語った。
 「党の代表は鳩山君だ。小沢君に対して右に行けとか左に行けとか言えるのは鳩山君たった一人だ。上司である鳩山君が判断することだ」
 民主党の党規約第13条によれば、党代表が国会議員の中から幹事長を選ぶことになっている。幹事長の人事権者は鳩山首相であり、渡部氏の言う通り、小沢氏の首を切れるのは鳩山首相だけだ。だが、鳩山首相は小沢氏続投を容認した。反小沢系と言われる議員らも自ら小沢氏の首をとりに行くつもりはないようだ。結局、党が危機的状況にあり、小沢氏の進退がそのカギを握っているにもかかわらず、「小沢氏を切ることは難しい。自発的に辞めてもらうしかない」(反小沢系議員)という消極的な判断に落ち着いてしまっているのが、民主党の現状である。

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