想定を超えた突発的な事件や災害は、ときに、政治や外交の「真実の姿」を浮き彫りにするので、目が離せません。

 フィリピンのマニラで先月、バスジャックされた香港人観光客8人が銃撃戦に巻き込まれて死亡しました。日本のメディアでは主に、①フィリピン警察の対応のまずさ②中国・フィリピン関係の冷却化、という2つの角度から、取り上げられました。
しかし、この問題で私が最も関心を持ったのは、事件のさなかの一本の電話によって、「一国両制(一国二制度)」下における香港の主権問題が、活発な議論にさらされたことでした。
 
 8月23日の事件発生後、香港の曽蔭権(ドナルド・ツァン)行政長官は、旧知であるフィリピンのアキノ大統領に直接、電話をかけました。人質の生命を最優先するよう伝えるためです。アキノ大統領は事件対応のため大統領府におらず、電話には出られなかったのですが、曽行政長官はその日の記者会見で電話の件を公表しました。 
 ここで大騒ぎになったのが、中国の一地方政府である香港のトップが、フィリピンの国家元首と直接コンタクトを取ったことが、適切であったのかという問題です。いわば、東京都の石原慎太郎都知事が、北京の胡錦濤・国家主席に電話をかけたようなもので、本来なら外交儀礼として許されない行為です。
 しかし、香港には、一国二制度を定めた香港基本法にによって保障された「高度の自治」があるのです。=つづく
                             (野嶋剛)

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