尖閣諸島問題の解読には三つの視点が必要

執筆者:野嶋剛2010年9月18日

尖閣諸島の漁船衝突問題に関して、色々な論評が出ていますが、筆者は、中国の対応を理解するには、三つのレベルから読み解く必要があると思っています。

1、中国漁業の拡大路線

中国漁業は装備の高度化が進む一方、沿岸の漁業資源は枯渇しつつあり、外洋に漁場を求める動きが活発です。アジアの海で乱獲、違法操業を繰り返し、ベトナム、フィリピンなど東南アジア諸国の漁船や海上警察とトラブルが続発しています。今回の事件も、漁民の冒険行動が起こしたトラブルであり、そこに国家的意図を見出すべきではありません。

2、国内のネット世論

中国には信頼できるメディアが存在しないため、ネットに皆が正解と情報を求め、巨大な怪物的「ネット世論」が誕生しています。そのネット世論に火がつき、弱腰批判が広がることを中国政府は恐れています。丹羽大使を5回も呼び出し、船員の釈放を「外交的勝利」と宣伝するのも世論向けのアリバイ作りであり、日本は不愉快ですがあまり慌てる必要はないでしょう。

3、中国の海洋大国戦略

問題は、中国に海洋大国を目指すという国家戦略があるため、事態が複雑化、深刻化している点です。空母導入、潜水艦の日本近海での問題行動、海洋資源の開発などはすべてこの戦略の下で進んでいます。本来は偶発的な漁船の衝突なのに、中国が「海」の問題では日本に譲ろうとしない心理が働き、ガス田交渉など海をめぐるその他の日中の争点に容易に波及してしまう構造的な状況が浮かび上がりました。

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