自民党の谷垣総裁と握手する菅首相(C)時事
自民党の谷垣総裁と握手する菅首相(C)時事

 菅直人首相と小沢一郎元幹事長の一騎打ちとなった民主党代表選は菅首相の勝利で終わった。両氏の意見が食い違っている消費税導入の是非や地方自治体への 一括交付金、米軍普天間飛行場移設問題などが争点となるとみられた選挙戦だったが、これらの政策論争はおしなべて低調だった。むしろ、民主党政権の行方を 占う上で、より重要だったのは、2人の政局観の違いである。注目すべき点は、今の衆参ねじれ国会をどのように乗り切るのかという展望において、菅首相が小 沢氏と比べてはるかに甘い見通しをもっていたことだ。これは政権が窮地に追い込まれかねない重大なポイントである。

早くも流れる「3月危機説」

 7月の参院選での民主党大敗によって、参院で与党過半数割れという状況が生まれた。このままでは、政府・与党提出法案は成立しない。特に深刻なのは、来年の通常国会で審議される予算関連法案である。2011年度予算案そのものは、憲法で定められた衆院優越の原則に従って、衆院で多数を持つ民主党の賛成で成立する。しかし、予算関連法案は参院で否決され、衆院でも再可決できないと廃案になる。予算案が成立しても、関連法案が成立しなければ予算を執行できない。そうなれば、菅首相は退陣するか、解散総選挙に打って出るしかなくなる。これが、マスコミが騒ぎ立てている「菅政権3月危機説」のシナリオである。
 当然、そういう状況に陥る可能性があることは、菅首相も十分承知している。その解決策として、菅首相が唱え続けてきたのが「パーシャル(部分)連合」だ。代表選告示を約1週間後に控えた8月24日、小沢氏寄りの議員が多いと言われる衆院1回生議員との懇談会で、菅首相は次のように語っていた。
「野党の協力も得て、お互い力を合わせてやっていけば、乗り越えられると思っている。政策ごとに引く所は引く、押す所は押す。妥協点を見いだして話し合いの上で法案を通せばいい」
 個別の政策ごとに連携相手の政党を探し、その政党の議員数を足して参院で過半数を確保して法案を通すというやり方である。菅首相は代表選期間中も、ことあるごとにこの部分連合論を繰り返した。
 この論理に真っ向から異を唱えたのが、小沢氏だった。選挙戦の中で、小沢氏は「与党と野党で政治的な考え方の違う問題については国会がまったく動かなくなるという事態になる」と、菅首相の楽観論を批判した。小沢氏の言うように、菅首相の言い分に多少のうなずける部分があったと野党が感じても、とにかく政権を倒すために法案に反対するというのは、現実の政治シーンではよくあることだ。まして、もともと思想、信条が異なる政策については、野党の協力など得られるわけがない。
 小沢氏は部分連合ではなく、他党を連立政権に引きずりこむか、味方につけて事実上の与党とする、あるいは他党議員を引き抜くなどの手段を使って、与党が安定的に過半数を確保しないかぎり、この政権はもたないと判断しているのだ。

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