尖閣諸島事件と対アフリカ政策

執筆者:平野克己2010年10月2日

 尖閣諸島事件における中国政府の姿勢は、胡錦濤政権のこれまでの対日政策からみると、おそらく中国専門家にとっても意外なほど強硬なのではないか。日本政府の初動に問題があったことも確からしい。中国内の政争も影響しているのだろう。

 中国を専門としない私の素人目には、以前にもこの欄に書いたが、尖閣諸島が中国の軍事戦略に鋭く関わるようになったからではないかと思える。つまり、中国にとっての「第一列島線」を確保するうえで尖閣諸島の領有が必要とされ、それゆえ日本領土であることを認められないということなのではなかろうか。ここしばらく中国海軍による「第二列島線」進出が問題になっていたが、今回の事件も同じ線上にあるようにみえる。
「第一列島線」は、台湾をめぐってアメリカと軍事衝突が発生した場合に中国が想定する絶対防衛線だから、当然ながら事は漁業を超えている。そもそも中国が尖閣諸島の領有を主張し始めた理由は東シナ海の巨大海底油田だといわれているが、その権益争いを上回る国益上の重要性が尖閣諸島に発生しているのかも知れない。
 一方日本は、「第一列島線」を睨む拠点である普天間基地の移転問題で右往左往し、さらには東アジアにおける米海兵隊の存在意義にまで言及して、日本の政権には東アジア軍事情勢に対する意識が薄いことを露呈してしまった。当時の小沢民主党幹事長は大議員団を率いて訪中し、日本は台湾問題を失念していると捉えられかねない動きを繰り返し発信した。日米間に距離が作られて、日本にとっての軍事的脅威は北朝鮮だけであるかのような印象だった。

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