インドのマンモハン・シン首相は25日、菅直人首相との日印首脳会談で、両国による経済連携協定(EPA=FTAの拡大版)締結に正式合意。中国による「禁輸」騒ぎでにわかに注目されたレアアースの開発・対日供給をめぐる協力を確認、微妙な問題をはらむ日印原子力協力についても「早期の決着」を目指すことで一致した。実際のEPA発効には、インド人看護師・介護士の受け入れ問題の未決着もあってまだ多少の時間がかかりそうだが、今回の合意により、2005年の小泉首相(当時)訪印によって明確な道筋がつけられた日印経済協力がようやく本格化への第一歩を踏み出すことになりそうだ。

ようやく年間100億ドルを超えるレベルまで増加してきた日印貿易だが、印中のそれに比べるとまだ6分の1。日本の貿易総額から見たらわずか0.8%だ。当然、EPAは貿易拡大の起爆剤としての期待が高まるが、すでに現地生産がトレンドになりつつある自動車部品、家電、鉄鋼製品などの関税引き下げがどこまで日本企業にメリットをもたらすかはよくわからない。むしろ、インド産冷凍エビやホームテキスタイル、研磨済みダイヤモンドといった輸入品がどれだけ安くなるのか、のほうが気になる。
インドとのFTA締結で日本に1年以上先んじた韓国に出遅れるのでは、との不安もあるが、これも品目ごとの関税削減スケジュールやカバーする範囲などをつぶさに見ていかないと評価はできない。このへんも含めて、日本貿易振興機構(JETRO)さんのご意見も参考に分析していきたいと思っている。
 中国のおかげで「流行りモノ」感が出てきたレアアース。確かにインドの埋蔵量は世界第5位の規模だが、有望な産地は極左武装組織マオイストが跋扈するインド東部に集中している。鉄鉱石やクロムやチタンなど豊富な資源がありながら、インド側には自前で探鉱・採掘する技術も金もないのが現実で、対日供給を目指すなら巨額の投資が必要となる。しかもウランなどの鉱山周辺では最近住民の健康被害も取りざたされており、そう簡単に日本に持って来られるものでもない。
 原子力協力もまた、「唯一の被爆国」日本の立場が微妙な影を落とす。日本は「インドが核実験を行った場合は一切の協力を停止する」との立場をインド側に伝えているが、今回の共同宣言文書には「核実験」との文言は入らず、菅首相も「インドによる約束と行動を重視する」と述べるにとどめた。これは野党時代の民主党から見ればきわめて柔軟な対応といえる。
だが、ここでわれわれは、「インドは、自国に核実験を実施する権利があると主張していること」「核実験の停止はあくまでインドの自主的な判断であること」を理解しなければならない。これはインドの譲れないプライドであり、アイデンティティでもある。
前にも書いて繰り返しになるが、一部報道にあるように、「日印がスクラムを組んで中国をけん制」などという意図がもし本当に日本の対インド外交にあるとすれば、とっくにインド側に見透かされているだろう。
印中関係はわれわれが思っている以上にはるかに成熟している。(山田 剛)
 

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