改革はシュレーダー前首相(右)からメルケル首相へと受け継がれた (c)AFP=時事
改革はシュレーダー前首相(右)からメルケル首相へと受け継がれた (c)AFP=時事

 ドイツが好景気に沸いている。経済・金融の中心地フランクフルトでは高層ビルの建設ラッシュが続き、消費も盛り上がりを見せている。雇用も増加し、高失業率に喘いでいた5年前がうそのようだ。ユーロ安による輸出産業の活況が背景であることは間違いないが、それだけではない。2002年以降続けてきた労働市場改革による規制緩和の効果が大きいのだ。円高阻止へ為替介入に踏み切り、官民挙げて輸出振興に突き進む日本も、労働市場のあり方を基本から考え直す必要があることを教えてくれる。

EU拡大で強まったドイツの輸出競争力

 10月21日、ドイツ国内ばかりでなく、世界中のエコノミストが驚嘆の声を上げた。ドイツ政府が2010年の実質国内総生産(GDP)の成長率予想を、4月時点の1.5%から3.4%へと大幅に引き上げたのだ。発表では、2011年も1.8%と潜在成長率を上回る景気回復が続くとしていた。アンゲラ・メルケル首相も講演で、経済成長によって新規に発行する国債を予定額よりも削減できるとの見方を示すなど、好循環に入ってきた。
 経済成長の牽引役は輸出だ。この10年で輸出額が倍増し、2003年以降は米国を抜いて世界トップに躍進。2009年は中国に抜かれて世界一の座を失ったとはいえ、依然高水準だ。今年に入って急速に伸びているのが、中国向け高級自動車などアジア向けの輸出である。
 今、アジア諸国はバブル経済真っ盛りと言って過言ではないだろう。先進国は金融危機から脱却するために、こぞって大量の紙幣を増刷している。その大量の余剰資金が「成長」を求めて世界をさまよい、潜在成長率の高いアジア諸国へと流れ込んでいるのだ。典型的なのが不動産で、もはや香港や上海、シンガポールの高級不動産価格は日本の主要都市のそれを凌駕するに至っている。
 中国政府は不動産価格の高騰に対して、1世帯当たり3戸目の不動産取得については銀行に融資を禁じる規制をかけるなど、対策に躍起になっている。だが、不動産バブルは一向に収まりそうにない。
 そうした資産価格の上昇に伴い高級品消費が盛り上がっている。日本ではもはや死語になった「資産効果」である。ベンツやアウディ、BMWといった高級車が売れまくっているのだ。ドイツ連邦統計局によると今年1-6月の中国向け高級車は12万8000台と、前年同期の3倍に達した。家電製品なども好調だ。また、産業向け資材の中国向け輸出も好調で、BASFなど化学会社の今年上半期の輸出額も約4割増えたという。
 この10 年、ドイツの輸出が増えてきたのは、EU(欧州連合)加盟国の拡大の影響が大きかった。東欧諸国がEUに加盟したことで、通関が大幅に自由化され、モノの移動が容易になった。ドイツ企業はこぞって東欧諸国に部品工場を建設、大幅なコスト削減を実現する一方で、新しい販売先、つまり新市場を手に入れていった。EU拡大による域内全体の経済活性化も追い風になった。実はドイツの輸出額の6割はEU域内向けで、実質的には「EU内需」とも呼べるものだ。
 このEU内需の拡大による数量効果は大きく、ドイツ製品の輸出競争力を大きく高めたことは間違いない。そこへ猛烈なユーロ安が訪れたわけだから、EU域外向けの輸出に火がつくのは不思議ではないわけだ。ドイツの輸出依存度は47%。日本の17%に比べるとはるかに高い。ひとたび輸出に火がつけば、一気に経済成長に結びつくわけだ。
 だが、ユーロ安という“神風”だけが、ドイツ復活をもたらしたわけではない。時計を2002年のドイツに戻してみよう。

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