映画「南京!南京!」は抗日映画か(1)

執筆者:野嶋剛2010年11月5日

 

「南京!南京!」という南京大虐殺をテーマにした映画が昨年、中国で上映されました。私は中国と台湾で2回観て、日本でいつされるのかと待っていましたが、現時点でまだ上映されていないようなので、日本の読者のために、この欄で少し書いてみたいと思います。

監督は陸川氏。姓が陸、名前は川です。日本人ではありません。中国で中堅の実力派監督です。「南京!南京!」には日本人俳優も数人出演していました。その一人で、映画のなかで「伊田」という日本兵として重要な役割を演じた木幡竜さんと先日、都内で一緒に食事をしました。

1976年生まれの木幡さんは大学卒業後、日本でプロボクサーとして連戦連勝を重ねましたが、映画の世界に飛び込んだ変わり種です。陸川監督と知り合ったのをきっかけに北京に移住しました。

 いま、映画市場として急成長する中国には多くの日本人俳優が単身渡って活躍の場を求めるようになっています。しかし、日本人の男性俳優に対し、中国では「抗日映画」の兵士役というステレオタイプのキャストが与えられることがやたらに多いのですが、木幡さんは「抗日映画には出ない」というポリシーを掲げてやっています。
 
「南京!南京!」は、南京大虐殺をテーマにはしていますが、日本軍による大量殺害やレイプなど残酷なシーンも描かれる一方、捕虜を逃して自殺する日本兵の葛藤を描くなど、日本兵を悪者として一方的に断罪せず、中国国内でも陸川監督はネット世論などから厳しい批判を浴びました。観客動員では非常に優れた成績を残しましたが、中国の主要映画賞ではほとんど獲得できませんでした。
 
抗日映画に出ないという木幡さんに「南京!南京!」は抗日映画ではないんですか、と聞いたところ、木幡さんははっきりと「自分は違うと思う」と言い切りました。  (=つづく。野嶋剛)

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