記者は何を知らせるか

執筆者:徳岡孝夫2010年11月15日

 ミャンマーの総選挙を取材するためタイから国境を越えて入国していたAPF通信の山路徹記者(49歳)が、11月7日にミャンマー当局に身柄を拘束された(9日に解放)。この通信社は、3年前にもミャンマー最大の都市ヤンゴンで反政府デモを取材中の長井健司カメラマン(50歳)が当局側に射殺されている。APFはアジア・プレス・フロントの頭文字だそうである。  ミャンマー政府は「みせかけ民主主義」の仮面を剥がされるのを恐れ、20年ぶりという総選挙の前から外国人記者の入国を禁止していた。 山路記者は、国法を破ったわけである。いわば捕まるのを覚悟でタイから国境を越えて入ったのだろう。入国する前にインターネットのツイッターに、入る理由を簡潔に書き残していた。 「入るな!と言われれば、逆にどんな手段を使ってでも入り、取材し伝えるのが私たちの仕事。見ていて下さい、長井さん!」  見上げた覚悟である。こういう目的意識を持っている記者は、常に自由をもっと広く、もっと広くと押し広げていく。そういう意識で書かれた記事が民主主義をその基礎でしっかりと支えるのだ。何億人という読者のいる新聞社、何千社という加盟社のある通信社でも、このspiritを失えば物の役に立たない。大衆を煽ることはできても、賢い判断の基礎にはなり得ない。

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