ミレニアム到来で揺れる聖地「ナザレ」

執筆者:立山良司2000年1月号

「見よ、あなたはみごもって男の子を産むでしょう。その子をイエスと名づけなさい。彼は大いなる者となり、いと高き者の子と、となえられるでしょう」――新約聖書の「ルカによる福音書」によれば、大天使ガブリエルはナザレのマリアにこう告げた。 ナザレは現在、イスラエル北部に位置している。人口は約六万、ほとんどがパレスチナ・アラブ人である。町の中心にあるのはもちろん、マリアが受胎を告げられたといわれる洞窟の上に建っている受胎告知教会だ。ミレニアムを迎えたこの聖地ナザレが宗教と政治の谷間で揺れている。 三年前、ナザレ市当局はミレニアムで多数の巡礼客が来ることを見込み、受胎告知教会前に広場を作ることを決めた。これにイスラム教徒が反発した。広場建設用地には十字軍をうち破ったイスラムの英雄サラディンの甥といわれるシハブ・ディーンの墓があり、彼らはそこにモスクを建設することを考えていたからだ。 両者の間にイスラエル政府が入り、モスクの面積を縮小し、残りを広場にするという妥協案を提示した。キリスト教徒とイスラム教徒との間にユダヤ人の政府が入ったわけで、形の上では三宗教が勢揃いした。だが、今度はキリスト教徒側が反発した。「イスラエル政府は少数のイスラム原理主義者の圧力に屈した」というのだ。

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