一九六四年十月十日、東京の国立競技場で、東京オリンピックの開会式が行われた。 その日、東京の空は、澄み渡った。前夜の雨がウソのようだった。「世界中の青空を集めたような青さです」とNHKの実況アナウンサー、北出清五郎は晴れ晴れとした声で表現した。 国旗掲揚。透明な日光が、各国の国旗に降り注ぐ。百十本の旗が、一斉に狂いなく、しずしずと揚がっていく。この間、きっかり二十五秒。 旗の掲揚を担当したのは、自衛隊式典支援群航空旗章隊だった。 国旗掲揚は単純な動作のように見えて、実は極めて難しい。風の強弱、滑車の具合、ポールの位置、長短、掲げ綱のたぐり方、何時間も直立不動で立っていることからくる神経と肉体の緊張……それらが影響を及ぼし、旗に一メートルぐらいの誤差はすぐ出てしまう。 旗章隊は立派に仕事をやり果せた。「開会式においては、陸海空旗章隊、それぞれたがいに手をたずさえるようにして、寸秒のくるいもなく一斉に参加国旗を掲揚し、無事任務を果した」と竹内三男一等空尉(航空旗章隊)は、オリンピックの後方支援をした自衛隊員の手記を掲載した証言集『東京オリンピック作戦』の中で誇らしげに記している。自衛隊の“デビュー”

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。