「スーパーの時代」は終わった

執筆者:喜文康隆2000年2月号

 一月の日本経済新聞文化面は、見方によればなかなかに意味深長だった。元旦からはじまった同紙の売り物コラム「私の履歴書」にはダイエーの中内功が登場し、辻井喬の連載小説「風の生涯」が佳境をむかえた。いうまでもなく辻井は、セゾン・グループの堤清二のペンネームである。 中内功と堤清二。戦後の流通業界を生き抜いてきた二人のスター経営者が、それぞれの手法で「戦後」を語りおろす。中内は中内らしく直截な手法で、そして堤は堤らしく小説家辻井喬として、サンケイ・グループの中興の祖、水野成夫(故人)をモデルにしつつ、左翼から転向し経営者にいたる道を、自らの人生と重ね合わせながら……。 二人の経営者のニアミスは、日経文化面にとどまらなかった。一月は、中内功と堤清二それぞれにとって、自らの経営手法の「終戦」を、銀行とマーケットから宣言された月でもあった。中内と堤の夢の終わり ダイエー・グループは一月に、コンビニエンスストア「ローソン」の発行済み株式の二〇%を三菱商事に売却し、リクルート株のダイエー保有分の大半を、リクルート自身に売却するという決断に追い込まれた。いずれも、中内の本意ではない。 コンビニと情報産業。ダイエーの今後の戦略展開にとって要となる企業の売却は、とりもなおさずダイエーの経営がぎりぎりのところまで追いつめられていることを物語っている。リクルート株の売却に抵抗する中内に対して、メインバンクは「会社更生法」まで示唆したといわれる。

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