「現代から過去を眺め、評価し裁くという態度を、私はとりません。言ってみれば密着取材型で、その時代に生きた人々がどう考えていたかが最重要事になる。(中略)そのためにも、その時代の人々が考えもしなかったことは私も考えないという、姿勢をとりつづけてきました」(塩野七生『ローマ人への20の質問』文春新書 六九〇円)

 本書は、著者が十五年をかけて取り組んでいる『ローマ人の物語』(現在、第八巻までが刊行中)の、いわば副読本である。このライフワークを通して著者が何を描こうとしてきたかが端的にわかる、“復習”にもってこいの本だ。しかも、本シリーズをまだ読んでいない読者にも、十分に楽しめるローマ史の入門書的な要素も兼ね備えている。また、まだ書かれていない巻の予告編的な側面ももある。

 本書の最大の魅力は、自らが問い、自らが答えるという「自己対話方式」を取ったことにあるといえる。「なぜローマは滅亡したのか」などという、本来ならば数百ページ以上を要して答えるしかない直截で素朴な質問も敢えて持ち出し、それに手短に答えようとすることで、ローマ史がよりビビッドなものになっている。

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