一九三〇年代、大恐慌後のデトロイトの街に一人の日本人が現れた。その名は中根中。貧困と差別に苦しむ黒人たちの「カリスマ的指導者」となった彼は、黒人を組織し、日本の味方に付けようと企んだ――。知られざる現代史に光をあてる。

 移民国家の米国にあって、「もう一つのアメリカ」と称される黒人社会。主流を占める白人社会とは異質な文化を維持してきた一方で、経済的にはヒスパニックやアジア系など後発の移民に追い抜かれ、貧困や犯罪といった問題に最も苦しんでいる。

 この黒人社会には、白人社会との関係を巡り今も二つの流れが存在する。マーチン・ルーサー・キング牧師に代表される、白人と協力して人種平等を目指す人種融合派と、かつてマルコムXが唱えたように、黒人だけの国を建設しようという人種隔離派である。

 数の上では前者が圧倒的であることに疑いはなく、後者の主張は現実感すら乏しい。ただし一九九五年、人種隔離派の急先鋒で、白人やユダヤ人への差別的発言でも知られる黒人モスレム団体「ネーション・オブ・イスラム(NOI)」の指導者、ルイス・ファラカンが主催した「百万人大行進」が、キング牧師による六三年の「ワシントン大行進」を凌ぐ数の黒人を首都へと集結させたことなどを見ても、黒人社会の不満は今も根強い。六〇年代の公民権運動を経て、制度的な人種差別が撤廃されて久しい米国にあっても、人種平等というキング牧師の夢は実現していないからである――。

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