「『ユダヤ』とは結局、『ユダヤ教徒』なのか、『ユダヤ人』ないし『ユダヤ民族』なのかという論争は、イスラエル内外でずっと続いているし、そのことがイスラエル社会やディアスポラのユダヤ人社会のあり様をさまざまに規定している(後略)」(立山良司『揺れるユダヤ人国家』文春新書 六九〇円)

 ユダヤ陰謀史観は極端な例ではあるが、「イスラエル」という国家についての日本人の思考は、「ユダヤ教を熱心に信じる民族の国」「アラブ諸国と激しい対立を続けている国」とのステロタイプなものにとどまる傾向にあるのではないだろうか。そんな固定概念を覆してくれるのが、本誌の「新宗教世界地図」の連載でもおなじみの立山良司氏の新刊である。

 一口にイスラエル国民といっても、実際にはアシュケナジー(ヨーロッパ系)とスファラディー(アジア・アフリカ系)、さらにロシア系などさまざまなグループに分かれ、マルチ・エスニック社会が形成されている。また、宗教化と世俗化が同時進行する中、ユダヤ教に対する態度も人それぞれ異なるものがある。

 著者はこのように多様な広がりを持つ人々の実像を描き出した上で、パレスチナ人との共存問題、変わりつつある安全保障概念、「ホロコースト」の持つ意味、アメリカ社会との共鳴と反発等の今日的な問題について筆を進めてゆく。

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