疲れを知らないバチカン外交の目指すもの

執筆者:立山良司2000年4月号

 まもなく八十歳を迎えるというのに、ローマ法王ヨハネ・パウロ二世は疲れを知らないかのようだ。休む間もなく世界を駆け回っている。在位二十二年の間に訪問した国はおよそ百二十カ国にのぼる。ミレニアムの今年、その活動はますます盛んだ。三月にはイスラエルやパレスチナを訪問し、ローマ法王とバチカンの存在感を改めて世界に示した。 イスラエルのバラク首相は法王の訪問を「ユダヤ人国家イスラエルとキリスト教世界との関係の記念碑的な転換点」と最大級に形容した。PLO(パレスチナ解放機構)のアラファト議長は法王の「パレスチナの大義に対する公正な立場」を繰り返し賞賛した。ローマ法王の発言や訪問が実際の中東和平交渉に具体的な影響を及ぼすことはあり得ないが、双方とも法王の存在をフルに活用しようと躍起になっている。 現代においてローマ法王が国際政治や紛争に積極的に関わり出したのは、ヨハネ二十三世(在位一九五八―六三年)からだ。同法王がキューバ危機の際、ケネディ米大統領の要請を受け危機の外交的解決を呼びかけた書簡をフルシチョフ・ソ連共産党書記長に送ったことはよく知られている。一九七八年に就任した現法王ヨハネ・パウロ二世はポーランド出身だけに、その発言が同国における「連帯」の運動を大きく盛り上げたことで、一躍有名になった。最近でもコソボや東ティモールなどの紛争解決を呼びかける他に、人権の尊重や貧困の解消、テクノロジーと人間との関係等の分野でも積極的に発言している。

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