決算発表のシーズンを迎えようとしている。しかし、今年はいつもと違う年になる。決算発表が、単独決算から企業グループ全体の状況を開示する連結決算中心に変わるからだ。連結財務情報、キャッシュフロー計算書などの公表を義務づけることで、決算制度の側面から企業の構造改革を促す“会計ビッグバン”の始まりである。「やっとここまでたどり着きました」 金児昭はしみじみと語る。昨年まで信越化学工業の常務であり、現在同社と金融監督庁の顧問を務める金児は、二五年も前から連結決算制度の重要性を訴え、定着に努力してきた人物だ。 企業の会計には二つの顔がある。社会的に決められた会計基準に従って資産・負債や損益の状況をまとめて企業の実態を世の中に報告する「制度会計」と、原価計算や予算統制、経営分析など業績向上を目的に独自に作成する「管理会計」である。 金児は、「日本は、管理会計では世界トップクラスの品質を持ちながらも制度会計は数十年遅れている。連結決算は制度会計のグローバルスタンダードであり、世界中のあらゆる企業の活動を包括する傘であるのに、日本の所だけ傘に穴が空いていた」と言う。 連結決算制度の定着に金児を突き動かしてきたのは、それが国際標準であることにとどまらない。「親会社あっての子会社」という支配思想や子会社を利用した利益操作など、「法人」という人格を愚弄する企業支配のあり方に根本的な疑問を抱いていたからだ。「悪いことをする会社もあります。しかし絶対多数の企業と社員は、世の中の役に立ちたいと努力している。その努力を、社会の枠組みとして支援するのが連結決算制度なのです」。

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