かずさDNA研究所

執筆者:本誌取材班2000年4月号

加速度的に進む「ゲノム解析」。バイオは今や、次代の主力産業の地位を獲得しつつある。立ち遅れた日本が選ぶべき戦略は何か――。研究所現場の取り組みの中に、その答えを探る。「ウミニシズンデユクユメノトチユウデアンドウミツオハネムリカラサメタナミオトニトウルルルルルトイウデンワノベルガカブサリツギノシ……」 読者がもしホラー小説の熱心なファンであれば、この文字の羅列が「DNA」という生物学用語に市民権を与えた鈴木光司氏のベストセラー、『らせん』のプロローグであることに思い至るかも知れない。 数十万の文字が一つの小説の全情報を形作るように、すべての生物もそれぞれ固有の情報が記された“文字の列”を持っている。ただし、その文字はたった四種類。細胞の核の中にあるDNA(デオキシリボ核酸)という物質に含まれる塩基、アデニン、チミン、グアニン、シトシンがそれだ。この四つの“文字”が二重らせん状に連なるDNAに、親から子へと伝えられる遺伝情報が隠されている。ヒトの場合、ゲノムと呼ばれる一セットの遺伝情報の塩基数は約三十億個。本誌一冊で約二十万字だから、その一万五千冊分という膨大なボリュームだ。 今年一月、米バイオベンチャーのセレーラ・ゲノミックスが、このヒトゲノムの九〇%を解読したと発表した。日米欧三極の政府研究機関がヒトのゲノムを端から読む「ヒトゲノム計画」に着手したのが一九九〇年。それを設立後わずか二年のベンチャー企業が追い越してしまったというのだ。ニューヨーク証券取引所に上場している同社の株価は、またたく間に急騰した。

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