「軍人が行政院長とは。十年前のカク柏村と同じじゃないか」

 陳水扁氏の記者会見が実況中継された時、ちょうど私と電話で話していたベテラン記者が電話の向こうでこう叫んだ。三月二十九日、台湾の新総統である民進党の陳水扁氏は、行政院長(首相)に軍人出身でしかも国民党員である唐飛・国防部長を指名すると発表した。革命政党としてようやく国民党を倒した民進党が、旧政権の軍人を内閣首班に指名するとは、本来なら最も似つかわしくないことだ。

 唐飛指名は、それまで行政院長就任が間違いないとされていた、ノーベル化学賞受賞者で市民からの人望が厚い李遠哲・中央研究院院長が、就任を固辞したための次善の策だった。

 しかしこのことは台湾の人たちに、李登輝前総統が九〇年、カク柏村・国防部長を行政院長に抜擢したことを想起させた。当時、軍人による政治干渉として、激しい反対運動が起きた。陳水扁総統も反対運動の先頭に立った一人だ。

 カク柏村氏は参謀総長を長く務めた人物。武器を持つ軍人は最も怖い存在である。「外省人」(戦後、国民党と共に台湾に渡ってきた大陸出身者)で、反李登輝派の巨頭でもあるカク柏村氏を行政院長に就けることは、危険を伴った。しかしそれによって彼を軍から引き離すことに成功。軍を離れた軍人はもう怖くない。国民の解任要求の中で、李登輝前総統は九三年にカク柏村氏を更迭、後任に腹心の連戦氏を据えた。これで李登輝前総統は、政権を本当の意味で安定させることができた。

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