疑問だらけのロー・スクール構想

執筆者:矢吹信2000年5月号

 予想された通り、司法改革の迷走が始まった。 四月二十五日に開かれた政府の司法制度改革審議会(会長・佐藤幸治京大教授、略称「司改審」)は、予定時間を大幅に上回る五時間もの長丁場となった。文部省など関係機関に示す文書の一節を巡って、「守旧派」委員の本音が表面化、それに経済界出身の委員などがかみつき、議論が紛糾したからである。会議の途中、日本弁護士連合会元会長の中坊公平委員すら、「迷走」と口走るほどだった。 二十一世紀の日本を支える司法インフラの整備を目指し、昨年七月に発足した司改審。十月の中間報告のとりまとめを間近に控え、分水嶺に来た。「未来」を作る改革か、現状維持か――。中坊氏の危惧が当たっているとすれば未来は暗い。そもそもが「妥協の産物」 司改審の関係者によると、紛糾のタネはロー・スクール(法科大学院)構想にあったという。ロー・スクールは、裁判官、弁護士、検察官の法曹三者などを目指す学生のための新たな大学院。様々な分野の学部卒業者や社会経験を積んだ者に法律を学んでもらって、司法界の内向き体質を正し、併せて法曹人口の増加を図ろうというのがその目指すところだ。 だが、実はこの構想自体が「妥協の産物」に他ならなかった。経済界には「司法試験合格者を大幅に増加すれば問題は解決する。司法試験が残る以上、ロー・スクールなど必要ない」(鈴木良男・旭リサーチセンター社長)という意見がある。しかし、法曹三者間に人員増加の話し合いを求めてもいっこうにラチが明かないので、業を煮やした経済界などが「人員増加のきっかけになればいい」として出したのが「ロー・スクール構想」のそもそもの発端である。司法界も一応これに同調、また、生き残りを賭けた大学関係者も便乗したことで、ここにきて創設議論が一気に盛り上がっている。

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