出光興産は本当に変身できるか

執筆者:2000年6月号

三十七年ぶりの増資に踏み切ったものの、上場への道はまだ遠い

 企業の成長を支えてきた理念そのものが、市場の時代に足かせとなる。“伝統的”という形容も、あっという間に不信を示すものになってしまった。日本型経営の蹉跌は、理念と伝統が強調されていた企業ほど、乗り越え難い苦痛となる。「大家族主義」を掲げ、日本の石油元売り業界をリードしてきた出光興産も、その例外ではない。

 五月二十三日、出光は一九六三年以来の増資を突如として発表、業界関係者の度肝を抜いた。彼らを驚かせたのは、三十七年ぶりという時間でも、それまでの資本金の約三十倍に当たる、二百九十億円という増資規模でもない。増資の引き受けリストに、住友銀行、住友信託銀行、東海銀行など五金融機関が名を連ねていたことだ。

 出光は民族系石油元売りの中では日石三菱に次ぐ規模。燃料油販売シェアでは約一五%を確保しており、九九年四月の日石三菱の合併までは、業界最大手だった。「人を資本と見なし、首切りはしない」。そんな言葉で表現されてきた出光の「大家族主義」が、日本型経営の典型的なモデルとして注目を集めてきた。

「大家族主義」は、資本調達の面では内向きの姿勢として表れた。創業者の故・出光佐三氏の時代から、過少資本はむしろ望ましいとされ、株主も関係会社などに限る“純血”を貫いてきたのである。増資前の出光の資本金はたった十億円、株主資本比率は約四・六%に過ぎない。

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