自民党の司法改革案に三つの疑問

執筆者:矢吹信2000年6月号

「いやー、このたびは本当にお世話になりました。先生のおかげで司法研修所も残存できます。ありがとうございました」 五月十八日に自民党の司法改革案が公表された後、最高裁の幹部が自民党・司法制度調査会関係者に挨拶回りをした。日ごろ、政治家への働きかけに慣れていない最高裁だけに、事務総局で司法行政を担当する「裁判をしない裁判官」の動きは永田町で目立った。「あまりにストレートな言い方なので、感謝されたほうも戸惑っていたようだ」(司法関係者)。 衆議院解散が間近に迫っていたこともあり、当初予定を一カ月前倒しし、司法制度調査会(保岡興治会長)が急ぎとりまとめた自民党の司法改革案。「二十一世紀の司法の確かな一歩」と題された同案だが、「この国のかたち」のグランドデザインとしてはいささか不満が残る内容になった。「いつまで」が明記されず…… 自民党の司法改革案が心もとなく見える理由は三つある。まず第一は、最高裁関係者を喜ばせた「司法研修所の残存」だ。 司法試験合格者(現在約千人)は全員、最高裁・司法研修所に国費で一年半通い、講義と実務研修を受けている。自民党案は新たにロー・スクールを創設する構想を盛り込んでおり、ロー・スクールでも二、三年の実務教育をする予定だ。このためロー・スクール導入後は現在の司法研修制度を大幅に見なおすか、研修所そのものを廃止すべきとの意見が学者などから上がっていた。「司法研修所での研修はロー・スクールでの専門教育に屋上屋を架すものではないか」。大企業の法務部長らで組織する経営法友会(代表幹事西川元啓新日本製鐵取締役)も、自民党案全体に対しては高く評価しながら、司法研修所残存策にはこう疑問を投げかける。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。