オールドエコノミーの逆襲

執筆者:杜耕次2000年7月号

“滅びゆく恐竜”に喩えられ、長らく苦況にあえいできた重厚長大産業が巻き返しを図っている。「株主重視」を掲げ、旧弊な企業文化・伝統の“創造的破壊”に取り組む経営者たちは果たして改革者になり得るか。「鉄鋼部門といえども、もはや聖域ではない」 新日本製鐵の千速晃社長(六五)は、シームレスパイプ(継ぎ目なし鋼管)事業からの撤退を決めた五月十一日の取締役会で、居並ぶ役員を前にこう言い放った。 八幡・富士の合併で新日鐵が誕生して以来三十年間、一度としてなかった本業での部門撤退である。「販売提携などで存続の道があった」「創業の地である八幡製鉄所への影響が大きい」といった声は根強かったが、千速は「シームレス事業の合理化は限界。他社との提携も効果がない」と、社内のセンチメンタリズムをあっさりと退けた。 原油掘削などに使うシームレスパイプは世界で千三百万トンの過剰設備がある。市況が乱高下するため採算が読みづらく、新日鐵では年間百億円近い赤字が出ていたといわれる。住友金属工業、川崎製鉄との共同販売会社構想が空中分解した昨年十二月以降、千速の頭の中には「撤退」の二文字がくっきりと刻み込まれたようだ。 ネットバブル崩壊を横目でにらみながら、「オールドエコノミー」「T(トラディショナル)ビジネス」などと呼ばれる重厚長大型の企業が巻き返し戦略を加速している。冒頭に紹介した新日鐵のように、巨大企業の経営者たちは「売却」「撤退」などの手法で、既存形態に思い切ってメスを入れている。

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