「次のコソボ」と懸念されるモンテネグロ

執筆者:永田正敏2000年8月号

「私は民間人を装ってセルビアに入国した“週末戦士”です。ミロシェビッチ大統領を誘拐して車の屋根のスキーキャリアで国外に運び出すつもりでした。だめなら殺害して大統領の頭部を持ち出す計画でした」 ベオグラードで七月末に記者会見したユーゴスラビアのマティッチ情報相は、逮捕したオランダ人が英語で犯行を“自供”する場面のビデオ映像を記者団に見せた。コソボに展開する北大西洋条約機構(NATO)軍主体の国際治安部隊(KFOR)から必要な武器を入手する計画だったという。 この「西側情報機関から派遣された四人の暗殺チーム」が米政府の報奨金を目当てにモンテネグロからセルビアに入ろうとしたところを逮捕したと、ユーゴ側は主張する。大統領の頭部を「G8で沖縄にいるクリントン米大統領へのお土産」にするつもりだったという荒唐無稽な説明だが、こうした説明を単なるプロパガンダと断言できないほど、セルビアと共にユーゴ連邦を形成するモンテネグロは、「スパイとテロリストと密輸業者のるつぼ」(ベオグラードの西側治安筋)になっているという。 内輪もめばかりのセルビア野党に見切りをつけ始めた米国が現在、最も頼りにするのがモンテネグロのジュカノビッチ大統領だ。ユーゴ連邦に属しながらも昨年のコソボ紛争では事実上、NATO支援に回った。昨年十一月以降、ドイツ・マルクを通貨に採用して経済的にもセルビアから離れ、「すべての外国」にビザを免除して外交的にも独り立ちに向かった。独立のための最後の柱である「軍」の創設にも近づいているようだが、米国の肩入れに比例してユーゴによる挑発も増えており、モンテネグロが「次のコソボ」になるとの懸念を呼んでいる。

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