「ヨーロッパの栄光」の犠牲

執筆者:徳岡孝夫2000年8月号

 自動車メーカーもそうだが、あらゆるメーカーには開発・設計、組み立て、メンテナンス、採算を考える四部門がある。それぞれに最善を尽くすが、一方で互いに牽制し合う。いくら凄い新製品を設計しても、ソロバンに合わなければ製造しない。それが常道なのに、採算を度外視して凄いものを作ってしまった。超音速旅客機コンコルドの悲劇は、そこにあったのではないか。 ヨーロッパの一致・和合の象徴として計画発表された一九六二年、フランスはドゴール大統領だった。何が何でも「西洋の没落」を食い止めるぞという強い意志の人だった。英仏の科学者は知恵を絞り、技術の粋を集めてコンコルドを造った。就航して三十年近く、それは二百万人超を「音の壁」を破って無事に運んだ。 しかし、あらゆる機械は時間とともにへばってくる。メンテナンスはキチンとやってるはずだが、採算の合わない機械の維持・補修はついおろそかになる。三時間半で大西洋を飛ぶのは結構だが、往復一万一千ドルだという。金持ちや有名人がひとわたり乗ってしまえば、誰が無理算段までして乗りたがるだろう。 六〇年代から八〇年代初頭にかけ、コンコルドは十数機組み立てられ、それでおしまいだった。パリで墜落したニューヨーク行き四五九〇便には乗員を含め百九人乗っていたが、一週間後に小トラブルを起したロンドン発ニューヨーク便(二時間延着)には、三十三人しか乗っていなかった。明らかに儲かっていない旅客機である。

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