エンロン日本戦略の「最終目標」

執筆者:牧智葉2000年9月号

「エネルギー業界のガリバー」が打ち出した発電所建設構想の深謀遠慮「ついにガリバーが動いた」――。 八月十七日、米総合エネルギー会社エンロン・コーポレーションが日本国内で火力発電所の建設準備に着手していることが表面化した。南米やアジアのガス・電力などエネルギー市場を相次いで侵食してきたエンロンが、競争から隔絶されてきた日本のマーケットをどう攻め落とすのか、その動向に注目が集まっている。 エンロンの発電所建設の有力候補地として名前が挙がったのは福岡県大牟田市。発電所建設計画が一部のメディアにより報じられたその日、栗原孝市長は急遽、緊急記者会見を開いた。「市長は全面否定する」との周囲の観測とは裏腹に、栗原市長は「六月下旬にエンロンから挨拶があったことは事実。固定資産税など税金も入ることだし市としては悪い話ではない」と意表を衝いて前向きなコメントを発表、エンロンの発電所建設が単なる噂でないことを明らかにした。 エンロンが建設を検討している発電所は今のところ石炭火力が有力。重油やLNG(液化天然ガス)に比べ燃料価格が格段に安いのが特徴で、コスト重視の外資系企業らしく徹底的にシミュレーションした形跡が窺える。実際、エンロンはオーストラリアや中国に燃料調達の筋道を付けており、「日本の電力会社よりも低コストで燃料を引っ張ってくることは可能」(大手総合商社)と見る向きは多く、実現すれば、規模は標準家庭十万―三十万世帯の電力需要を賄える三十万―百万キロワットと電力会社が無視できない中規模クラスになる公算が高い。

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