インドネシアのワヒド大統領が八月末に実施した内閣改造で、最も注目を集めた人事が、スシロ・バンバン・ユドヨノ氏(五一)の調整相(政治・社会・治安担当)就任だ。すでに国軍を退役しているとはいえ、司令官候補とも言われた国軍エリートが内閣の中枢に座ることは、民主化を進めるインドネシアにあって、国軍の影響力がいまだに強いことを意味する。とはいえ、国軍改革派・ユドヨノ氏の起用は、過渡期にあるインドネシア政治に安定感をもたらすワヒド大統領の絶妙な配役と言えるかもしれない。 手元にユドヨノ氏(当時は国軍ナンバー3の領域担当参謀長)が昨年八月、「インドネシアの政治・治安の概観」と題して演説した講演要旨がある。この中でユドヨノ氏は「国軍は日々の政治活動から離れ、国防・治安に専念していくだろう」と語った。同じ時期、東ティモールの独立の是非をめぐる住民投票で独立派が勝てば、国連軍を受け入れるとの考えも表明している。 東ティモールでは昨年九月四日に住民投票の結果が発表になり、独立派が勝った。そして反対派の民兵と一部のインドネシア国軍兵士による凄惨な破壊活動が始まり、国軍は事実上、これを放置してしまった。歴史に「もし」は禁句だが、ユドヨノ氏の良識が当時のハビビ政権と国軍に通用していたら、東ティモールの復興はもう少し楽になったかもしれない。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。