行政院長辞任を機に政権を掌握した陳水扁総統

執筆者:早田健文2000年10月号

「乱中に秩序あり。すべてを掌握している」 陳水扁総統は十月二日、台湾の中小企業代表と会見した際、現在の政治・経済情勢は一時的なものだとしてこう語った。唐飛・行政院長(首相)が辞任したのは、その翌三日のこと。陳水扁総統のこの発言は伏線だったのだ。台湾の新政権は五月二十日の発足から四カ月余りで、早くも最大の転機を迎えることになった。 国民党員の唐飛院長は、第四原子力発電所をめぐって建設停止を主張する民進党と陳水扁総統に反して賛成を表明していた。建設停止は陳水扁総統の選挙公約であり、経済部(通産省)も九月三十日には建設停止案を提出。行政院として最終決断を迫られていた時期だけに、この問題が辞任の引き金になったとの見方が根強い。 陳水扁政権は発足後、混迷を続けていた。五十五年に及ぶ国民党の長期政権を倒し、新時代の到来として期待されたが、立法院(国会)や軍を中心に力を維持する旧勢力への対応に苦慮し、政策を何一つ推進できずにいた。その状況下での唐飛院長辞任劇は、新政権の空中分解を印象付けた。 しかし、原発建設は国民党時代の政策ではあるが、清廉な人柄の唐飛院長には辞任を賭けてまで産業界と軍のために賛成に回る必要はない。何より唐飛氏は、当初から来年末の立法委員(国会議員)選挙までのつなぎ役と見られていた行政院長だ。唐飛氏は行政院長指名を受諾した後に手術を受け、高齢と激務のために入退院を繰り返していた。やはり、辞任の最大の理由は健康問題であり、タイミングを計った陳水扁総統が一気に軌道修正に出たとみるべきだ。

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