「市場で激しい競争が繰り広げられるなかで、誰がルール違反を正し、裁くのか。その役割は『大きな行政』の影に隠れていた司法が担うべきものだ。ところが、人口対比の法曹人口は先進国で最も少なく、何よりも『サービス業』としての視点が弁護士にも裁判所にも欠けている」(日本経済新聞社編『司法 経済は問う』日本経済新聞社刊 一五〇〇円) 本書は昨年十月から今年六月にかけて日本経済新聞紙上に掲載された同名の連載に、大幅に加筆・修正を施したもの。政府の司法制度改革審議会の議論など、司法改革は現在も進行中だが、こうした動きを考えるうえでも、極めて示唆に富むテキストとなっている。 本書の際だった特徴は、タイトルにもうたわれている通り、一貫して「経済」の側からの司法の使い勝手にこだわった点だ。しかも、弁護士や裁判所などの狭い意味での司法だけでなく、ビジネスモデル特許の持つインパクトやネット課税の問題、遺伝子紛争など、最先端の事象にも切り込んでおり、司法の多様性を浮かび上がらせる。 司法の役割が高まることは、企業にとってはもちろん良いことばかりではない。使い勝手の良い司法は大歓迎でも、PL対策や特許戦略、巨額賠償への備えなど、企業にもそれ相応の対策は必要になってくる。通読して浮かび上がるのは、官民を問わず「法化社会」への意識・体制の変化を迫られた日本の姿だ。

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