自民党非主流派のリーダー、加藤紘一元幹事長が「倒閣」を宣言したのは、十一月九日夜、永田町のご意見番を自負する渡邊恒雄・読売新聞社長、政治評論家の早坂茂三、三宅久之、屋山太郎、中村慶一郎の各氏との会食の席だった。 評論家業の傍ら、内閣官房参与として森喜朗首相のマスコミ対策アドバイザーを務める出席者の一人、中村氏から首相の許に入った緊急連絡の概要は次のようなものだった。 会場のホテルオークラの日本料理店にちなんで名付けられた中村氏らの勉強会「山里会」に、加藤氏はこの日、古賀誠国対委員長とともにゲストとして招かれていた。古賀氏は加藤派ながら野中広務幹事長の信任が厚く、二年前の小渕政権発足以来、国対委員長を任されてきた人物。昨年の総裁選を機に加藤派が反主流に転じて以来、加藤、古賀両氏の関係も自然と疎遠になっていた。党役員の古賀氏がいる前で微妙な話題に立ち入るのはまずかろうと、加藤氏もホスト側も遠慮したのだろう。本題に入ったのは、酒も進み、古賀氏が途中退席した後だった。「十二月の(内閣)改造では本当に、入閣要請があっても断るつもりなの」。一週間前のテレビ番組で「要請されてもやる気は全くない」と宣言した真意をただそうと、早坂氏が水を向けると、加藤氏は意を決したように口を開いた。

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