イランの意向を汲んだハタミ歓迎午餐会

執筆者:西川恵2000年12月号

 イランのハタミ大統領が十一月三日までの四日間、イラン大統領としては初めて日本を国賓として訪問した。穏健派のハタミ大統領は昨年三月のイタリア訪問を皮切りに、フランス、ドイツと歴訪し、訪日はこの対西側協調路線の延長線上にあった。 訪問にあたって、日・イ両国の外交当局は慎重に準備を進めた。同大統領のフランス訪問では、歓迎宴にアルコールを出す、出さないで、外交問題に発展したいきさつがあったからだ。 昨年三月、ハタミ大統領はフランスを国賓として訪問する予定だったが、エリゼ宮での歓迎晩餐会についてイラン側は「イスラム教徒はアルコールを飲まないし、ボトルを目にするのも嫌う。テーブルに出さないで欲しい」と求めた。しかしフランス側は伝統的な儀典のやり方であるとして拒否した。 実際のところ、エリゼ宮の饗宴はすべての人にワインを注ぎ、イスラム教徒などアルコールを飲めない人にはグラスをもう一脚出し、ジュースを供する。「何を飲むかは本人が選択すればいいこと」「客人が訪問国の儀典に従うのが筋」というのがフランス側の言い分だった。 しかしイランは頑としてノン・アルコールを求めた。穏健派のハタミ大統領としては、国内保守派からの「イスラムの教えを破った」との突き上げを考え、譲れなかったのである。結局、双方折り合わず訪問は中止された。

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