ギリシア加盟で計十二カ国となったユーロ圏の金融政策を担う欧州中央銀行(ECB)。誕生から三年目を迎えたばかりの、このよちよち歩きの中央銀行で、ドイツ連邦銀行(ブンデス・バンク=ブバ)出身のオトマール・イッシング専任理事が、組織内部での影響力を着実に強めている。 昨年末、欧州の市場関係者にイッシング理事の力を強く印象づける「事件」が起きた。 二〇〇〇年十二月二十日、ECBは初の「経済予測」を公表した。約一年前に、ECBの金融政策の不透明さを批判されたウィム・ドイセンベルク総裁自らが「必ずしっかりした予測データを発表する」と欧州議会で公約していたもので、特にインフレ予測の数字は今後のユーロ相場を大きく左右する。労使間の賃金交渉や企業が事業計画を練る上でも大前提となる重要なデータだけに、金融市場は固唾を飲んで待ち構えていた。 ところが蓋を開ければ期待からは程遠い内容で、既存の経済指標を寄せ集めた単なる資料集とも呼ぶべき代物に過ぎなかったのだ。この総裁主導の計画に対してECB内部で激しい批判を浴びせ、市場へのインパクトが薄まるよう誘導してきたのが、ECBのチーフエコノミストたるイッシング理事なのである。

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