欧州で台頭する「地域通貨」

執筆者:戸川秀人2001年2月号

ユーロを尻目に、なぜ「擬似通貨」が普及しはじめたか[フランクフルト発]欧州委員会のフィシュラー農業担当委員の表情が、日を追うにつれ深刻になっている。「現在、欧州連合(EU)域内で起きている事態は、我々の当初の想像をはるかに超える危機(クライシス)に発展しつつある」――。全欧州の市民の食卓に被害が急拡大する「狂牛病」について、ブラッセルの欧州委員会が一月三十日に発表した「緊急事態宣言」である。 翌三十一日、ドイツ連邦政府は四十万頭にも及ぶ国内の肉牛を一斉処分するという危機回避策を決断。他のEU加盟各国も、既に流通経路に乗った食肉の処分や精肉業者の衛生検査に相次いで乗り出した。 目に見えない狂牛病の厄難は、国境を越えて、いつ、どこから自分たちの生活圏に侵入してくるか分からない。域内の貿易自由化と統一通貨ユーロの導入で「一つの市場」となった欧州だが、狂牛病はその広域流通網の弱点を見事なまでに急襲した。 ドイツの牛肉の消費は昨年末から一気に五〇%減少し、価格は三六%も下落した。食卓にソーセージが欠かせないドイツ人にとって大打撃だ。その副作用で、鶏肉や魚介類の価格が高騰し、予想外のインフレの種にもなりつつある。経済効率の向上を最優先してきた欧州統合構想のアキレス腱が、たった一つの病原体によって、初めて浮き彫りにされたともいえる。

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