学力低下回避の処方箋

執筆者:森口朗2001年2月号

「ゆとり教育」を推進する新学習指導要領の実施が来春に迫っている。学力低下は必至とも思えるが、対策がないわけではない。「文部省の人事権の及ばない、外務省出向中の“安全地帯”でモノを言うのは、公務員としてのモラルに欠ける」――文部省(現文部科学省)の“スポークスマン”ともいうべき寺脇研政策課長は、週刊文春(二〇〇〇年九月十四日号)誌上において厳しく後輩を叱責した。 文部省は、「ゆとり教育」と称して一九七〇年代後半から二十数年間にわたり、子どもたちの学習内容を削減し続けてきた。日教組と和解した九〇年代以降は「ゆとり教育」路線にも拍車がかかり、九三年には子どもが自己の学力を認識できる指標であった偏差値を追放した。そして、この「ゆとり教育」路線を推進してきたのが、他ならぬ寺脇氏である。 ところが、膝元の文部省から火の手が上がった。昨年八月、文部省から外務省に出向中の大森不二雄氏が従来の「ゆとり教育」を批判する本を出版したのである。本の名は『「ゆとり教育」亡国論』(PHP研究所)。タイトルに、文部省主流派に対する反乱の狼煙をあげた若手官僚の、逃げも隠れもしない意気込みが現われている。 冒頭の寺脇氏の激昂は、この本の衝撃がいかに大きかったかを物語っている。とはいえ、寺脇氏の「出向中だから人事権が及ばない」というロジックはあまりに形式的だ。出向中の行状を理由に「干す」ことなど簡単なのは、「宮仕え」する身ならば誰でも知っている。

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