ポストゲノムで巻き返す日本

執筆者:正木利2001年2月号

新薬開発の鍵を握るのはたんぱく質の基本構造解析 二十一世紀を目前にした二〇〇〇年最大の科学ニュースは、日米欧を中心とした国際共同プロジェクトがヒトの全遺伝情報(ゲノム)解読に成功したことだった。解読された情報によりがんに代表される病気の発生メカニズムの解明や効果的な新薬開発の進展が期待され、将来的な市場規模は十兆円と推計されている。各国の企業や研究機関がこの宝の山をわが物にしようと乗りだし、この分野で世界をリードする存在である米バイオ企業セレーラ・ジェノミクス社との間で解読競争が激化。さらに、特許化をめぐっての論争も起きた。 しかし、ゲノム解読がただちに新薬開発につながるわけではない。解読された三十億個の塩基配列はそれだけでは意味が分からない文字の羅列に過ぎない。三十億個の中に十万個の遺伝子が存在するが、その中で意味のある遺伝子は全体の五%と言われる。病気に関係する遺伝子となればもっと限られてくる。 体内では遺伝子に基づいて、たんぱく質が作られる。このたんぱく質が細胞や酵素といった生命活動を維持するために体内で働く本体だ。新薬の開発にしても、遺伝子を元にどのようなたんぱく質がつくられるかを明らかにし、そのたんぱく質を制御する薬剤を設計しなければ実用化には程遠い。ポストゲノム研究ではゲノムの中に含まれる遺伝子の特定などと並んで、遺伝子の情報を元に作られるたんぱく質の立体構造解明が鍵を握っているのだ。

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