イスラムに揺れるインドネシア

執筆者:田畑昭2001年2月号

ワヒド大統領の「寛容さ」が、抑圧されてきたイスラムのエネルギーを噴出させた[ジャカルタ発]インドネシアのワヒド大統領が就任以来、最大の危機に直面している。二月一日、国会が二つの不正資金疑惑――食糧調達庁の福祉財団から三百五十億ルピア(約四億二千万円)が大統領の名の下で引き出された件と、ブルネイ国王からアチェ特別州の人道援助の名目で受け取った二百万米ドルの不透明な寄付――について、大統領の関与を結論付けた調査特別委員会の報告書を圧倒的多数で承認、大統領に警告書を送ったことが引き金となった。大統領が警告書の内容を無視し続けると、大統領の任免権を持つ国民協議会が特別会を開き、弾劾に及ぶ可能性がある。 九九年十月の大統領選挙でワヒド氏当選に協力したイスラム系諸政党は揃って大統領の退陣を求めている。国会ではメガワティ副大統領が党首を務める第一党の闘争民主党や中立を保ってきた国軍会派なども報告書を承認するなど、大統領は与党である国民覚醒党(第四党)以外、議会での足場を失った格好だ。定数五百の国会で国民覚醒党は五十一議席しか持たず、対立が決定的となれば大統領に勝ち目はない。 この危機の政治的な構図を言えば、スキャンダルをのらりくらりとかわしてきたワヒド大統領が、議会の反発を招いて自らを窮地に追い込んでしまったということにつきる。ただ一方で、九八年五月に崩壊したスハルト強権政治のアンチテーゼであるワヒド氏が「寛容なイスラム指導者」であるために、インドネシア社会が内包してきた矛盾や対立が一気に噴出していることも見逃してはならないだろう。具体的には、それはイスラム意識の高まりであり、イスラム過激派の暗躍であり、イスラム教徒間の勢力争いである。

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