過熱する南北米大陸の地政学

執筆者:2001年3月号

「FTAAシフトを進める米国」と「メルコスル強化を狙うブラジル」の思惑が衝突[サンパウロ発]南北米大陸の地政学が熱を帯びている。熱源は二〇〇五年の交渉完了を目指す経済統合、米州自由貿易地域(FTAA)だ。ブッシュ米新政権が減税政策の策定に追われていた二月上旬、米国を挟んだ西半球の主要国、カナダとブラジルが牛肉製品の禁輸問題を巡って火花を散らした。 カナダ政府は同月二日、ブラジル産牛肉の狂牛病対策が不十分との理由から、同国産牛肉製品の輸入停止を宣言。カナダとともに北米自由貿易協定(NAFTA)を構成する米国とメキシコも追随し、欧州の狂牛病問題で自国産牛肉の国際的需要増を見込んでいたブラジルは焦りを募らせた。ブラジル政府はカナダの禁輸措置に猛反発、四月にカナダで開かれる米州サミットへの出席取り下げまでちらつかせた。 この騒ぎは結局、カナダや米国の調査団がブラジル入りし、狂牛病感染の危険を裏付ける証拠はないとして、禁輸措置を撤回して収拾された。ブラジルとカナダはこの五年間、双方の航空機メーカーに対する輸出補助金問題で世界貿易機関(WTO)を舞台に争ってきた。カナダが禁輸措置を発表したのはWTOでブラジルがカナダのパネル(紛争処理小委員会)の設置を阻止した翌日だったことから、ブラジル側はカナダの意趣返しだとも主張。最終的にブラジルの言い分が通った形だが、この間ブラジルの「全面的な貿易戦争もいとわない」(カルドゾ大統領)という対決色が改めて鮮明になった。

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