独仏融和の象徴はアルザス料理

執筆者:西川恵2001年3月号

 フランスのシラク大統領とドイツのシュレーダー首相の夕食会を兼ねた非公式会談が一月三十一日夜、ドイツ国境に近いフランス東北部アルザス地方のブレシュハイムでもたれた。中心都市ストラスブールの近くにある人口千人の小さな町で、会場にあてられたのは家族経営の気のおけないレストラン「シェ・フィリップ」だった。「小さな町で警備がし易い上に、空港から七キロと地の利がよく、日帰りしなければならない両首脳にとっても便利でした」とエリゼ宮の担当者。そうした便宜的な理由はともかく、アルザス地方が首脳会談の場所に選ばれたのにはそれなりの訳がある。 豊富な鉄鋼石と石炭の埋蔵量をもつこの地方は、一八七〇年の普仏戦争以来、戦争の度に両国が取り合い、第二次大戦終結によってフランス領に確定した。つまりアルザス地方は恩讐を越えた両国和解を象徴する地であり、フランスはドイツとの仲がギクシャクすると、ここで会談なり食事会をもち、関係を修復してきた。 このときもそうだった。昨年十二月のニースの欧州連合(EU)首脳会議で、ドイツはEU閣僚理事会(EUの最高意思決定機関)の議決権で、人口の少ない英仏伊三カ国と同じとする譲歩案を議長国フランスに飲まされた。加えて将来的な欧州統合のあり方についても、ドイツが「欧州連邦案」を示したのに対し、フランスは明確なビジョンを示さず、溝が深まっていた。

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