「無謀だということは重々承知のうえで、私は、著者という最川上にいる存在が生み出したテキストが、編集者と出版社の手で加工され、取次を経て書店に並び、『本』という名の商品として読者に消費されるまでの全プロセスを一つあまさず描いてみたかった」(佐野眞一『だれが「本」を殺すのか』プレジデント社刊 一八〇〇円)「四年連続の対前年売上げ減」に象徴されるように、出版不況は深刻さを増すばかりだ。携帯電話の普及による「活字離れ」の更なる進行、新古書店「ブックオフ」の隆盛による再販制(定価販売制)の揺らぎなどに加えて、電子出版の現実化、オンライン書店の登場など、いわゆる「デジタル化の波」が押し寄せ、本の世界が大きく変貌を強いられているのは間違いない。 これまでも「本に関する本」は少なくなかったが、編集者物語や出版流通論などの「業界本」に終始していた。そんな中、本書の最大の特徴は、著者、版元(出版社)、取次、書店、読者と、本に関わるすべての人々を「串刺し」にする形で丹念に取材し、本を巡る地殻変動を「事件」と捉え、その全体像を描き出そうとしたことにある。 著者の問題意識は極めて明確で、「読むに値する本が生み出され、読者の元に確実に届いているのか」に尽きる。それを阻み、本を殺している「犯人」は本に関わっているすべての人々だというのが、著者の結論である。「取次悪玉論」ばかりが蔓延っているが、志を喪失した編集者の堕落も厳しく批判されており、さらに読者をも聖域にしていないところに著者の慧眼がある。書店を通じての読者からの注文(客注)のうち、四割が取りに来ない現実があるという。

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