土地神話の復活はありえない

執筆者:石山新平2001年4月号

容積率の緩和、大量供給、時価会計――地価が上がる理由は一つもない「地上げされたままだった土地が動き始めた。しかも公示価格を大幅に上回る価格で」――。東京の渋谷や青山など都心の一等地。十年を経た今も、駐車場や空き地、簡易店舗などの形で狂気の時代の名残が点在する。途方もない金額をつぎ込み、銀行を今日まで悩ませ続ける不良債権の源である。その狂気の名残が急速に変化しつつあると、都心の土地取引に詳しい不動産業者は言う。 東京株式市場。日経平均株価の低迷をよそに不動産株に買いが集まる。四月五日には三井不動産が一三七二円、三菱地所一三一五円の年初来高値をそろって付けた。六日に政府の経済対策閣僚会議が決めた「緊急経済対策」に、土地の流動化促進策として「容積率の緩和」が盛り込まれるのを見越した買いだった。「一定のオープンスペース等が確保された優良なプロジェクトについて容積率などの緩和を行う制度の積極的活用に向けて本年四月中に……都市計画の運用基準を、より柔軟な運用となる方向で見直す」――。容積率緩和の具体的な施策こそ打ち出されなかったが、早急に緩和へ向けた議論が始まることだけは明らかになった。 容積率の緩和――。中曾根首相時代の民間活力導入の手法として多用され、土地バブルのきっかけとなった。容積率五〇〇%の土地なら、土地の広さの五倍の床面積のビルしか建たないが、一〇〇〇%に緩和した場合、十倍の床面積のビルが建つ。土地を有効に利用することが可能になり、例えばオフィスの供給量を増やす効果がある。供給が増えれば価格が下がりそうなものだが、オフィス不足の深刻化が喧伝されたバブル期には、オフィスの賃貸価格は変らなかった。つまり、容積率が二倍になった瞬間、土地の価値が二倍になるというマジックが生まれたのである。

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