フランス「民主主義の実験」の虚実

執筆者:渡邊啓貴2001年4月号

同性愛家族を認める連帯市民協約、男女同数法の「理想と現実」 フランスでは三月に市町村議会選挙が行なわれ、事前の予測を大きく覆して保守派が躍進、現役閣僚を含む左翼の多くの有力政治家が敗退した。保守派は全国で四十超の市を左翼からとり戻した。今回の地方選における目玉の一人だった、左翼の現役閣僚ギグー女史は、南仏アヴィニョン市で落選が決まった直後、涙声で「今日私はとても悲しい」と感極まった記者会見を行なった。 しかし、他方でパリとフランス第三の都市リヨンでは左翼の市長が誕生した。自分がホモセクシャルであることを公言した社会党のドラノエ・新パリ市長は、それと分かる柔らかな仕草で胸に手を当て「パリ市民は文化と民主主義的実践の刷新を選択した」と静かに語り、最後に壇上から支持者に大きな投げキスを送った。 今回の選挙の底流には、ドラノエの言葉に象徴される新しい時代の潮流が垣間見えた。そして、それを支えたのが「実験場」としての民主主義を尊重する国民の意識であった。新しい社会階層の出現 いつの時代でも花形の職業・社会層がいる。かつてのBCBG(bon chic bon genre=家柄がよく、品のよい名士層)に代わって今日注目を浴びているのが、「ボボ(Bobo=ブルジョワ・ボエーム)」たちである。米国人ジャーナリスト、デーヴィッド・ブルックスが書いてベストセラーとなった『楽園のボボ達』という本がその由来で、広告・メディア・ネットベンチャー(フランスでは「スタートアップ」という)・服飾・ショービジネスなどの職業につく、比較的若く高収入の人々のことを指す。

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