南シナ海でおきた米軍偵察機と中国軍戦闘機との空中衝突事故は、米中関係がいかに不安定な基礎の上にのっているかを再認識させた。一方、政権発足後二カ月にして、ブッシュ政権はそれ以外のいくつかの政策を公表している。その一つが、地球温暖化を防止するための重要な国際取り決めである京都議定書からの離脱の発表である。この一年間、どちらかといえば国際関係は平穏に推移してきたが、それが緊張状態に転ずる兆しが見えたのが、この一カ月だったのかもしれない。さらに、レームダック状態の森喜朗首相の訪米と関連して、日本についての議論も散見された。際立ったえひめ丸事件との差 本稿が読者に届くときまでに、米軍偵察機と中国軍機の衝突事件が決着しているかどうかはよくわからない。しかし、この事件の持つ意味とその深刻さは、二月におこった「えひめ丸事件」と比較してみると明確になる。えひめ丸事件でアメリカ側は、ただちにその責任が自らにあることを明らかにした。それに対して、今回の空中衝突事故について、アメリカ側に責任があると思った人は、アメリカ側ではきわめて少なかった。「中国沿海でのアメリカ軍機の飛行目的は、中国にとって秘密でもなんでもない。冷戦が終わったからといって、ロシアと中国の軍事行動と通信をモニターしようとするアメリカの必要性がなくなったわけではない。最近数カ月、中国は防衛活動を沿岸から拡大し、その軍用機を危険なまでに米軍機に接近させていた。しかし、米軍機が国際空域にいるかぎり、中国が米軍機に対決しようとする正当性は存在しない」という『ニューヨーク・タイムズ』紙社説の見解に明らかなように、非は中国側にあるのではないかとの見解が圧倒的であった。したがって、「ブッシュ大統領が、米外交官が二十四名の米軍機搭乗員と即時会見することを認めなかった中国側に抗議し、同機と搭乗員を即刻返還するよう求めたことは正しい」という同紙社説の見解は、アメリカ側の感情を代表するものだった(“A Collision With China,”『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン(IHT)』、四月四日)。

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