対日関係改善に奔走する知日派インド大使

執筆者:西川恵2001年4月号

 東京の桜が満開となった四月四日、東京・九段にあるインド大使館で「桜を見る会」が催され、日本の政財官界や在日外交団の招待者約三百人でにぎわった。 この時期、大きな庭をもつ英国やオーストラリア大使館なども「桜を見る会」を開くが、インド大使館の場合はナショナルデーのパーティーも兼ねている点で異なる。インドが英国から独立したのは一九四七年八月十五日と、日本の終戦記念日と同じ。このためインド政府は日本にある大使館に限って、日本人の感情に配慮して、ナショナルデーのパーティーを桜の季節にずらして開くようにしている。 インド大使館の前庭からは千鳥ヶ淵のお堀が一望でき、招待者はフランスワインのグラスを傾けながら、暮れなずむ夕刻のひと時、見事な桜の借景を楽しんだ。館内の広間の長テーブルにはビュッフェ用に各種カレー、サモサ、チキン・ティッカなどのインド料理が用意されたが、なくなるのにさほど時間はかからなかった。 インドと関係の深い人なら、今年のパーティーはここ二、三年とは雰囲気が大きく変わったことに気付いただろう。九八年のインド核実験以来、日本世論の批判や経済制裁によって、両国関係はギクシャクしていた。昨年八月に森首相が訪印し、一定の成果を上げたこともパーティーの空気に反映していたが、何といっても昨年九月に駐日大使となって赴任したアフターブ・セット大使の存在が大きかった。日本をよく知る大使の多彩な人脈が、これまでにない和やかな雰囲気を醸し出し、大使は流暢な日本語で招待者一人一人と挨拶を交わし歓談した。

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