日本はナノテクノロジーで勝てるか

執筆者:正木利2001年4月号

米欧に対抗するためには確固たる国家戦略が必要だ「鋼鉄の十倍の強度を持ちながら、重さはその数分の一の金属材料」。「米議会図書館の蔵書を角砂糖一つの大きさで収納できる記憶媒体」。そんなSFの世界を実現する技術「ナノテクノロジー」の研究競争が日米欧で始まった。 米国では昨年クリントン前大統領が研究予算をそれまでの倍にあたる五億ドル(約五百四十五億円)とすることを決定。刺激を受けた日本でも、首相の諮問機関である科学技術会議(現・総合科学技術会議)が昨年、ポストゲノム研究と並ぶ重点分野に位置づけた。もともとナノテクノロジーでは日本が世界的にリードしてきたが、米国の攻勢に煽られ、慌てだした格好だ。日米が先を争うナノテクノロジー研究の課題は何か。「ナノ」は十億分の一を指す。「ナノテクノロジー」は十億分の一メートルの世界で物質を扱う技術のことだ。この世界を理解するために、身近な物を例に取ると、髪の毛の太さは十ミクロン台の大きさとなる。また大腸菌や赤血球の大きさは一ミクロン台。髪の毛の一万分の一、赤血球の厚さの一千分の一がナノの世界ということになる。 ナノの世界は原子や分子が実体として見える世界だ。原子を直接操作したり、物質の構造を制御することで、新しい性質を持った材料を開発する。ナノテクノロジーはそんな技術を総称している。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。