総合商社「経営改革」の落し穴

執筆者:2001年5月号

事業統合など華やかな動きが続くが、新たな「商社モデル」は見えていない 中国東北部(旧満州)の中心都市、大連。郊外に広がる経済技術開発区の中に日本工業団地と呼ばれる一角がある。伊藤忠商事、丸紅、東京三菱銀行などが核となって開発した工場用地でコニカ、リョービなど数十社の日本企業が進出する。その工業団地を訪れた日本人ビジネスマンがほぼ例外なく口にする感想がある。背中合わせに並んだ伊藤忠系と丸紅系の二軒のコイルセンターのことだ。「あれじゃ共倒れですね」。コイルセンターは輸入鋼材を切断、加工して家電や機械メーカーなどに納入するのが業務だが、団地周辺の限られたユーザー数とコイルセンターの規模をみれば素人目にも行き詰まりは歴然としているからだ。実はこの二軒のコイルセンターこそ商社業界を揺るがす事業統合旋風の引き金となった。事業統合は特効薬か? 昨年十月、伊藤忠、丸紅は鉄鋼販売部門の統合を発表した。商社において鉄鋼は原材料の鉄鉱石、石炭の納入から製品の加工、販売まで関われるうまみのある事業で長らく中核部門だった。三井物産、住友商事、日商岩井では鉄鋼畑から社長が輩出している。名門の鉄鋼部門を分離して他社と統合するのはタブーに近い決断だった。だが、高炉メーカーによる商社の選別、切り捨てが進む中で鉄鋼取り扱いが下位で、部門が赤字続きの両社に選択の余地は少なかった。タブーを乗り越える下敷きとなったのが、部門統合の発表に一年先んじて両社が決めた大連の赤字コイルセンター統合だった。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。