リスク管理なき三百七十兆円が金融市場にやってきた―― 郵便貯金、簡易保険、郵便の郵政三事業が民営化に向けて動き出した。小泉純一郎首相が圧倒的な高支持率を背景に、これまで政界ではタブーとされてきた郵政改革に取り組む決意を表明しているからだ。三事業民営化が持論である小泉首相の意向を反映し、郵貯などの経営形態を議論する首相の私的懇談会のメンバーは、多くが民営化論者で占められている。 これまで議論の中心となっていたのは、国が事業を独占している信書配達の民間開放と、郵貯・簡保資金が特殊法人に流れているという二つの論点。議論が煮詰まれば、もう一つの論点である、郵貯・簡保という総額三百七十兆円の資金を扱う巨大金融機関のリスク管理・資金運用体制がどうなっているのか、という問題が浮上してくる可能性が高い。「総務省には経営指標などの情報開示をきちんとしてもらう」――。首相の私的懇談会では、座長を務める田中直毅21世紀政策研究所理事長をはじめ、多くの委員が三事業のディスクロージャーが不足していると口にする。懇談の次回の会合は七月に首相官邸で開催される予定だが、そこでは三事業の地域別やサービス別の収支、それに資金運用の実態を総務省の官僚に報告させることにしている。懇談会の委員に就任して間もないエコノミストや学者たちが、早くも総務省に注文を付けている背景には、旧郵政省時代からその経営指標が明確でなかったことがある。

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